菩薩行のすすめ
天台寺門宗の教えの根本は、菩薩行の実践にあります。
菩薩とは、お釈迦さまが到達されたる菩提(悟り)の境地を求め、同時に人々を救うための実践行をおこなう修行者のことです。
天台寺門宗では、この教えを「自利化他の菩薩行」、「上求菩提下化衆生」という言葉で呼び、わたしたち一人一人が、菩薩となって、自らは悟りを追求しながら、同時に、人々と互いに手をつなぎ助け合っていくこと(「済世利人」、世を済い、人を利すること)、そして、すべての存在が平等で、平和な世界をみんなで築いていくことを目指しています。
諸法実相
こうした教えを実行するには、わたしたちが人間として生きていくなかで、正しい生き方を追求しなければなりません。
それには、先ず、この世界のすべての存在をどのように認識すればよいのか、ものの見方が問題となります。天台では、「諸法実相」、「一念三千」、「空仮中の三諦円融」などと言いますが、その根本は、「空観」にあり、ものには普遍の真理や不変の実体があるわけでなく、すべての存在をありのままにみること、何ものにもこだわらない見方、心のあり方を学ばねばなりません。
次には、実践の問題として、こうした見方をいかに体得し、どのように行動するかが問題となります。
円頓止観
天台寺門宗では、「円頓止観」ということ言います。止観とは、諸々の心の思いを一つの対象に止めてそそぎ(止)、正しい知恵をもって対象を観ること(観:照見)で、仏教全般に通じる根本的な実践行ですが、その実践行である止観が円頓であること、すなわち、円満頓速、すべてが円かに欠けることなく、たちどころに悟りにいたらしめる行法、その究極の教えのことを言い、天台宗を一名、円頓宗とも言うくらい天台では特に重視しています。
解行一致
いずれにしても、天台寺門宗では、「解行一致」、「教観双美」と言い、教理の理解(解)とその修行(行)が、そのいずれかにかたよることなく、あたかも鳥の両翼、車の両輪のように互いに扶助しあって修行を深めていくことが求められています。
天台では円・密・禅・戒の四宗兼学を称揚しますが、天台寺門宗では、さらに修験の法門を加えた五法門をもって構成されています。
円・密・禅・戒・修験の五法門
円教(円)とは、円頓の教えのことで、お釈迦様の説法のなかでも最も尊い『法華経』の教えのこと。これを顕教とも呼んでいます。
密教(密)は、顕教に対して、『大日経』などに説かれた秘密の教えのことを意味しています。
禅法(禅)とは、いわゆる天台の止観のことで、円教の実践面のおしえですから広くは顕教に包含することができます。
戒律(戒)は、これらの修行を行う上で、守るべき規範であり、教義そのものの内容ではありませんが、仏教に帰依し、修行する者の前提となるものです。
修験道とは、日本古来の山岳信仰に仏教とくに密教が習合した日本独自の実践行を主とする教えで、天台寺門宗では、円密禅戒の四宗に修験を加えています。
顕・密・修験の三道鼎立
したがって、五法門を要約すれば、戒律を守りながら、円・禅をあわせた顕教(止観業とも言う)と密教(遮那業とも言う)を車の両輪とし、これに独自の実践行である修験道を加え、これら三道が一体となって一つに融合するよう修行することが、自己の悟りを求めつつ同時に人々のために行う菩薩の自利利他の行そのものであり、もって、この世界に存在するものすべてが仏性をもっており、このことを自覚することによって修行に励み、現世を仏国土のようなすばらしい世界にしていくことが天台寺門宗の究極の教えなのです。これを「顕・密・修験三道鼎立」と言い、「済世利人」、「上求菩提下化衆生」を宗是とする天台寺門宗の教義の最大の特色ともなっています。
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